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しゅるしゅるっと、パスタを吸い込む。青い草のような香りが、胸いっぱいに広がる。麺を噛みしめると「くっ」と歯に応え、もっちりした弾力が押し返して来る。香りと味にかすかな高音をひらめかすのは唐辛子、中音を支えるにんにく、そして全体を柔らかく包んでいるこれは・・・オリーブオイルだ。もう一度香りを吸い込むと、遠いイタリアの丘の上から、海を越えて青い風がサーッと渡って来た。
イタリアはトスカーナ地方で採れたエキストラバージンオイル、草のような爽やかな香りは、しつこさを感じさせない。生産者は熱血イタリア女性、曾祖父のオリーブ畑を継いで有機農業を営んで来た。オリーブに親しんで育った彼女はハイクオリティーのオイルを目指し、出会ったのが秀明自然農法だった。農薬も化学肥料も動物糞も一切使わず、細やかに愛情をかけて育てていく。「これはいいことだ。」と本能的に感じた彼女は、思い切って全てのオリーブ畑の転換を試みた。
毎年10月中旬、トスカーナ地方ではオリーブの収穫がはじまる。コンテナに収穫したオリーブを満載し、それを人力で、坂道の上り下りを繰り返しつつ搬送する。機械力に頼れない、トスカーナ地方の特色である、丘陵地での収穫作業の風景であり、彼女のオリーブ園でもそれは同様だ。重労働だが、しかしその分オリーブへの愛情がこもる。
収穫翌日、彼女は早起きをして搾油所に向かい、朝一番に機械にかける。多くの農家がここで搾油をするが、清掃後一番目の彼女のオイルには、他のオイルが混じらない。オリーブオイルで最高品質のものはエキストラバージンオイルと呼ばれ、新鮮なオリーブオイルで酸度が0.8%以下のものを言う。酸度が低いほど、いわゆるおいしい、高品質のオイルとなるが、そのなかでも彼女のオイルは酸度0.1%台前半のプレミアオイル。酸化を抑えるには、収穫後いかに早くそのオリーブの実を搾油所に持っていき、搾油するかにかかっている。栽培面で農薬・肥料を用いないことのみならず、この極めて低い数値は、いかに彼女が搾油・加工面でも高品質のオリーブオイルを作り出すための努力を重ねているかを端的に物語っている。
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輸入をしたレストランシェフたちは、その香りとまろやかな味に驚き、メニュー開発が始まった。パスタや野菜のオーブン焼き、オリーブオイルジュース・・・。他でちょっと味わえないこのジュースは、ニンジン、トマト、セロリ、ブロッコリーなどを絞り、オリーブオイルと塩少々を加えただけ。生野菜の濃い風味が、青草のオリーブオイルと相まって何とも絶妙、まさに絶品コールドスープである。
シェフの一人がつぶやいた。「カナダ産のパスタ、同じパスタでも自然農法の小麦で作ったものは、水分の吸い方が毎回違う。茹でるごとに加減を見て、茹で時間を調節するんです。パスタも野菜もひとつひとつが生きていて、あゝ勿体ないと感じてしまう。特にこのオリーブオイルには、今日もよろしくお願いしますと、毎朝、挨拶をしたくなるんです。」食材と心を通わすシェフたちの腕を通して、大自然が生み出した小麦や野菜やオイルが、お腹をいっぱいにする以上の大切な何かを、私たちに届けてくれる気がした。
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