銹絵百合形向付 五客 乾山 図録解説
百合の花をそのままかたどった手法は仁清(東京・根津美術館、京都・野村美術館蔵)にも見られます。
ざっくりとした土を使った絵唐津風の焼き成り、花弁の重なりに段差を設けて立体感を出した上に、銹絵(鉄絵に同じ。茶色や黒褐色に発色する鉄釉で絵付けしたもの)で花弁を縁取って蘂(しべ)を描いた仕上がりの乾山の百合形向付は、存在感と力強さを感じさせます。器表面には型から離れやすくするためにあてられた布目跡が残っています。五客中四客に記されている乾山銘はよく似通う整った書体で、明らかに文字性を留めています。
鳴滝窯跡出土遺物の中にこの向付の部分と一致する陶片がいくつかあり、草創期の近代日本をつくりあげ、また大茶人でもあった益田鈍翁のお眼鏡にもかなった乾山窯鳴滝時代を代表する作品といっていい向付です。
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