病人たちを癒すキリスト(百グルデン版画) レンブラント・ファン・レイン 図録解説
 「百グルデン版画」は銅版画の傑作であり、レンブラントの画業の頂点を示す作品の一つに数えられる。彼の語りべとしての卓越した能力と、版画家としての力量が前面に押し出された1枚であり、熟達した銅版画の技を見てとることができる。明から暗へと徐々に移り変わっていく様が描かれており、左側の白い光が右に行くにつれ深く暗いビロードのような闇へと変化している。複雑ではあるものの統一感の感じられるこのシーンで、レンブラントはかつてない試みとして、マタイによる福音書第19章のすべて(19:1-30)を1枚の絵で表すために、複数のエピソードを同時に描き込んでいる。右側には、自分のもとへ集まる病人たちを癒すイエス・キリストが描かれている。左側には赤ん坊を抱いて近づいてくる2人の女性。これは、キリストが子どもたちに祝福を与える場面を表している。左上では、パリサイ派の人々が集まり、何やら話し合っている。彼らはイエスを試そうと、離縁が律法に適っているかどうかという議論をふっかけて失敗したのだった。左側の集団の中には、身なりのいい1人の男性。顔に手を当て、物思いに沈んだ様子で座っている。これは金持ちの青年で、イエスに従うために富を捨てるべきかどうか決めあぐねているところである。右端に描かれた、門をくぐって入ってくるらくだは、「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」という、イエスがこの青年について語った言葉にちなんだものである。なお、「百グルデン版画」という有名なタイトルは、レンブラントがこの版画を100グルデンで買い戻そうとしたという逸話に由来している。 (Nadine M. Orenstein)

関連美術品
17 病人たちを癒すキリスト(百グルデン版画) レンブラント・ファン・レイン