インドでは古来、ヤクシャと呼ばれる自然の精霊に対する信仰があり、その女性形はヤクシーである。これらは森林に棲む恐るべき神に由来する護法神や豊穣多産の福神として崇拝された。彼らの姿はヒンドゥー教と仏教の美術にともに見られ、日本には鬼子母神や軍神福神の二面を持つ毘沙門天などとして伝わった。このヤクシー像には生い茂る生命力や多産あるいは豊かさを象徴するかのような、過剰とも思われる繊細な宝飾品を頭、腕、胸、腰、脚、踝に着けている。この肉体の要素よりも宝飾品を強調する表現は古代インダス文明の地母神像にすでに見られるが、そのような人々の祈願をやさしく受け止め恵みを垂れる古来の微笑みがこの作品にも表されているのであろう。
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ヤクシー像