アケメネス朝時代(前6―前4世紀)
鍍金銀
高31.0 cm 口径11.0 cm
 このリュトンの先端部は、前脚を伸ばした牡鹿の姿になっている。手のひらを広げたような特徴的な角と体の斑点から、ダマジカを表していることがわかる。別造された杯部には、反り身になり後脚をぴんと伸ばした鹿の後半身が打ち出されており、杯の湾曲を利用して躍動感あふれる姿態を表現している。前半身部分とは、鹿の胴体の中ほどで極めて巧妙に接合されており、継ぎ目は肉眼では判別できない。両前脚の間に注口がある。杯部には横畝装飾を施し、ギローシュ文で画した口縁部にはロータス文とパルメット文を交互に繋いで巡らす。主要な部分には金箔を貼り付けて、装飾効果を高めている。
 本作品は形状、鹿の顔の表現、杯部装飾にアケメネス朝美術の特徴を示している。類品としてはメトロポリタン美術館シンメル・コレクションの、杯部に後半身が打ち出され、口縁部に植物文のある銀製牡羊形リュトンを挙げることができよう。しかし動物の造形において後者がやや様式化された重厚な表現法を示すのに対して、本作品では、アンフォラの山羊形把手にも共通するアケメネス朝美術の優美で華麗な側面が強調されている。

関連美術品
牡鹿形リュトン