前4世紀
鍍金銀
高20.8 cm 口径10.0 cm
先端部に馬の前半身が接合されたリュトン。杯部は細い縦畝で飾られ、口縁部には木蔦が巡っている。馬は両脚を前方に出して疾駆する姿で表現されており、両脚の間に注口がある。鬣は頭頂部では柱状に一つに括られ、後頭部から首にかけては短く刈りそろえられて板状に立っているが、最下部には細長い三つの房が、背の両側に振り分けて表現されている。頭部には面繋、胸には中央に鈴らしきものが下がった胸繋をつけている。全身が黒色の錆で覆われているが、その下に顔の細部や体の筋肉の正確な表現を見てとることができる。重要な部分には鍍金を施している。ほぼ直角に首を下げた馬の姿勢、鬣の形状、上脚部の筋肉表現は、ペルセポリスの浮彫に描かれた馬と共通しており、アケメネス朝美術の特徴を示している。一方、口縁部の木蔦装飾や馬の写実的な造形はギリシア的な要素である。この二つの様式の融合が、躍動感のある力強さと、端正な優雅さを兼ね備えたこのリュトンのような作品の製作を可能にしたのだろう。
本作品と極めてよく似た銀製馬形リュトンが、ブルガリアのボロヴォで出土している。トラキア文化のコテュス一世の時代、すなわち前4世紀前半のものである。馬具を着けていないが、細部の表現も共通しており、同じ工房で作られた可能性も考えられる。
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