伊藤若冲は京都錦小路の青物問屋に生まれる。初め狩野派に学び,宋元明の中国画を研究するが,模倣だけでは真の自己を啓発するに至らないと悟り,丹念な自然観察から独自の画風を展開,精細で装飾性の強い花鳥画を描く一方で飄逸な水墨画を数多く生んだ。特に鶏は自邸の庭に数十羽を放し飼いにし,その形状観察や写生に数年間を費やし,多くの作品を遺している。

本図は画面いっぱいにおのおの双鶴と蓬莱亀を対角線構図で極端にデフォルメして描きつつ,その生態を巧みに表現している。殊に首を竦める鶴の卵形の体躯,亀の甲羅と藻の表現に写実を極めた若冲ならではの秀逸さを感じる。若冲の水墨による動植物には一種の禅機図的な気配が漂う作品が多いが,これは彼がのちの相国寺住持大典禅師との交流で禅道に傾倒し,隠遁的性格を内在していたことに深く起因しよう。この鶴亀のように,見る者の心底を見透かすような鋭い眼差しにもそれは濃厚に表れている。白文方印「藤汝鈞印」および朱文円印「若冲居士」。

関連美術品
双鶴図(鶴亀図双幅のうち)伊藤若冲筆
霊亀図(鶴亀図双幅のうち)伊藤若冲筆