鎌倉時代 13世紀
木造彩色,截金
像高:52.4cm

地蔵菩薩は,釈迦の没後から弥勒が成道するまでの長い間,すなわち無仏時代において人びとを済度する役割をになっているとされる。したがって,菩薩でありながら剃髪した僧侶の姿をとる。平安時代以降,右手に錫杖を執る像が多くなったのも,この菩薩が浄土に住まず,この世に留まりつづけて遊行しているという信仰に基づくからにほかならない。

本像は左手に宝珠,右手に錫杖を執るという一般的な像容で,現世遊化という性格から左足を半歩踏み出して歩行の姿を表している。

ヒノキを用材とした寄木造の構造になるが,その木寄せ法は小像にしては大変に細かい。およその構造は,頭・体部は前後二材からなり,さらに頚部下と胸部襟際で割り放つ。面相部は別材を仮面状に矧いでおり,刳りぬかれた目の部分にはその内側から水晶をあてて,玉眼としている。両体側部や両手先・両足先も別材を矧いでいる。この像でとくに注目されるのが,着衣に施された豊富な文様である。切金(金箔を細く切ったもの)により,雷文繋ぎ,麻葉繋ぎ,卍繋ぎ,唐草などを表し,その間に表される彩色文様は金泥で括られる。

顎の張った面相部に,切れ長で見開きの強い目を配し,意志的な面貌としており,着衣部の華麗な文様と相まって,現世の救主らしい現実感を出している。像容・着衣文様ともに,鎌倉時代後半の典型的な作例である。(伊東)

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地蔵菩薩立像