平安時代 10世紀
木造
像高:51.4cm

左手に執る持物が欠失しているが,おそらく華瓶(蓮華の挿された瓶)だと推定され,そうであれば観音菩薩と考えて間違いないだろう。右手をまっすぐに垂下し,全指を伸ばして掌を前へ向けるしぐさは珍しいともとられようが,平安時代前期の古像にはときどき見うけられる。

両足先と足ほぞを除くすべてが,ヒノキと思われる一材から彫成している。両側頭部か
ら垂れる冠ぞうの体から浮いた部分,両手や天衣の胴体から離れた部分まで,別材を矧
ぎつけることなく,一材から作り出すという精細な彫技は,本格的な一木造の像を目指したものとして注目される。ところで,この程度の大きさを白檀で作ることがあり,それを檀像と称して,古来珍重されてきた。そのような像は細かな彫技を誇示することが常で,表面は素地か単色の薄彩色が多かった。しかし,日本では白檀が得難かったので,別の代用材でこれを作ることも行われた。したがって,本像はヒノキ材による代用材檀像の一例とみなされるもので,彫刻のくぼみに残る白色も,表面にかけられた薄彩色の残存かと推定される。

丸い顔に,小さな鼻,あまり伸びない目や口などからくる落ち着いた雰囲気は,小像のため通常の像と一概に比較はできないけれど,仏師康尚の活躍した10世紀末の風が感じられる。(伊東)

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