特に前6世紀頃のギリシャ陶器や、アッシリア、バビロニアの円筒印章には、古代オリエントでは古い歴史を持つ「動物の主人」の意匠を下敷きにしていると思われる、二対翼の精霊が両手に鳥や有翼の精霊を把持している図柄が見られます。
このトルクに表現された二対翼の精霊は、両脇から水鳥が寄り添う形を取っており、何らかこれらの同時代の印章と似通った魔除けの意味合いを持っていた事が想像されます。
この水鳥を伴う魔除けの図像は紀元前二千年紀のエーゲ海域(クレタ)起源と考えられ、前7世紀ロードス島の皿絵に表現されたゴルゴンは二対翼で水鳥を両手に把持し「動物の主人」形を示していますが、ゴルゴンは後に脅しや魔除けの意匠として翼や蛇の生えた顔の意匠に変貌し、しばしば鎧の胸元や門戸に表現されるようになりました。
ゴルゴンの二対翼がエジプト起源とすれば、その両手に把持する水鳥も「降魔」や「豊穣・再生」といったエジプトの家鴨の図像の意味合いが託されている可能性が考えられます。
この作品がトルクとしては異例のペンダント付きであり、水鳥を従えた精霊表現がその胸を覆う部分になされているのも、この魔除けの働きを狙ったことを裏付けるものと思われます。
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