バクトリア地方由来と考えられるルーヴル美術館の石製婦人像の二つの類例を見ると、どちらも坐像ではなく立像形をとっています。

この坐像も立像も、その表現に際立った違いが見られない事から、同じ女神即ちエラムのナルンデ女神を表現したのではないかと想像されます。

この他にもエラムの円筒印章に表わされた王妃の姿との類似性など、これはバクトリア地方が当時、エラム王国の文化的影響下にあった事を示していると言われています。

いまだにこの石製像の担った役割は不明ですが、南イランの遺跡からは体に穀粒様の文様が施された石製男神像、南東イランでは体から穀物を生やした女神の坐像を刻んだ印章が出土している事を考えあわせると、この女神像も豊穰や再生といった古代の女神が多く担った意味合いが込められていた事が想像されます。

この石製男神像は四体以上の類例が存在しますが、等しく円筒状の容器と思われるものを持ち、顔面には額から眉間を通り頬の下に至る傷あるいは溝が切られ、中には白い石の象嵌が残っているものもあります。

これはおそらく死と再生によって豊穰をもたらすシュメールの豊穰神ドゥムジ神話に通じるものがあるのではないかと思われます。またドゥムジがイナンナの分身と見做されていた事とも関連して、同時代のアッカドの男女の植物神を表現した円筒印章も参考となるとおもわれます。

エラムに近い南メソポタミアのアッカドも同様の神話を共有していましたが、この場面は女神とともにはたらく男神を表わしています。

これらの神話や石製像、印章から、これらの男女の石製神像はほぼ同様の意味合いを担っていたものと想像されます。

・古代オリエント集/ 筑摩世界文学体系1/ 東京 1978;
・D.Collon/ First Impressions/ 1987 London 106,135; ・Andre Parrot/ Acquisitions et
 Indits du Musee du Louvre/ SYRIA Tome XL 1963;
・R.Ghirshman/ Notes Iraniennes XII-Statuettes Archaeques du Fars (Iran) / ARTIBUS
 ASIAE XXVI 1968
女性像/ルーウ゛ル美術館
女性像2/ルーウ゛ル美術館

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